5.庭を一緒に考える
庭も一緒に考える ― 建物と暮らしをつなぐ、もうひとつの“部屋”

家づくりの話をしていると、「庭はあとで考えればいいかな」と言われることがあります。
建物が主役で、庭は“おまけ”のように考えられてしまうことも少なくありません。
ですが本当は、建物と庭は切り離せない関係にあります。
窓の外にどんな景色が広がるのか。
玄関を開けた時、どんな緑が迎えてくれるのか。
リビングやダイニングから、何が見え、何が見えないようにするのか。
これらはすべて「庭」のあり方と深く結びついています。
谷中幹工務店では、家づくりを考えるとき、「庭も含めて住まい」と考え、建物と一緒に庭のあり方をイメージしていくことを大切にしています。
◆ 「豊かなものは外からやってくる」
太陽の光、季節ごとに変わる風、山や海から運ばれてくる空気。
暮らしを自然に豊かにしてくれるものの多くは、外からやってきます。
そこに緑(植栽)が加わると、その豊かさはぐっと深まります。
室内からふと外を眺めたとき、
視界に緑が入るかどうかで、心の落ち着き方はまるで違ってきます。
枝や葉越しに差し込む光、
雨に濡れて色の濃くなった葉、
季節ごとに少しずつ表情を変える木々。
そうした小さな変化が、日々の暮らしにそっと彩りを添え、「ここで暮らしていてよかったな」と感じる瞬間を増やしてくれます。
◆ 外から見たときの「佇まい」をつくる

緑があるかないかで、家の外観の印象は大きく変わります。
いくら建物そのものが整っていても、
敷地にポンと置かれただけのような印象になってしまうと、どこか落ち着きがありません。
一方で、玄関アプローチの脇に一本の樹があり、
窓辺にそっと枝葉がかかるように配置された植栽があると、
建物と敷地がひとつのまとまりとして見えてきます。
それは、住まい手にとっての「我が家らしさ」であると同時に、
周囲の人にとってはその街の「佇まい」をつくる大切な要素にもなります。
自分たちだけのための庭であると同時に、
道ゆく人の目や心も和ませてくれる――。
そんな庭が一軒一軒に増えていくことで、街の雰囲気そのものが少しずつ豊かになっていくのだと思っています。
◆ 「あとで余ったところに木を植える」ではもったいない
庭づくりでよくあるのが、
- まず建物を敷地いっぱいいっぱいに計画する
- 駐車場・アプローチを決める
- 最後に「空いているところ」に植栽を少し…
という流れです。
もちろん、それでも植栽がないよりは良いのですが、これでは庭の力を十分に生かしきれているとは言えません。
私たちは、間取りを考える最初の段階から、庭や植栽のイメージを一緒に描いていくようにしています。
具体的には、
- リビングやダイニングから、どの方向に緑を見せたいか
- 隣家や道路からの視線をどうやってやわらげるか
- 夏の日差しを木陰でどこまでカバーできるか
- 冬の日差しをどうやって室内に取り込むか
- 洗濯物の動線や、子どもの遊び場との関係
といったことを、建物のプランと一緒に検討していきます。
平面図の中にも最初から植栽の位置を書き込み、
「この樹がここにあると、ここからの眺めはきっと気持ち良いだろうな」と思い描きながら計画します。
たとえ畳一枚分ほどの小さなスペースでも、
最初からきちんと建物と庭をセットで考えておくことで、家全体の豊かさは大きく変わってきます。
◆ 小さな庭でも、できることはたくさんある
「うちの土地は広くないから、庭なんて無理ですよね?」というご相談をいただくこともあります。
しかし、庭は広さの問題だけではありません。
たとえコンパクトな敷地でも、
- 窓の前に一本だけ高木を植える
- 足元に低木や下草をそっと添える
- 玄関までのアプローチに、季節を感じられる樹種を選ぶ
といった工夫だけでも、暮らしの印象はがらりと変わります。
庭と言うと、「大きな芝生」や「立派な和風庭園」のイメージが先に立ちがちですが、
むしろ日々の暮らしに寄り添う“小さな庭”のほうが、現代の暮らしには合っているかもしれません。
窓辺のわずかなスペースにお気に入りの木を一本植えるだけで、
室内からの眺めに“奥行き”が生まれます。
それは、窓の外に、もうひとつの小さな部屋ができたような感覚です。
◆ メンテナンスと、無理のない庭との付き合い方
庭というと、「草むしりが大変そう」「管理できる自信がない」と不安に思われる方も多いと思います。
庭づくりで大切なのは、「背伸びをしないこと」だと考えています。
毎日の暮らしや仕事のペースを想像しながら、
- 自分たちでどこまで手入れできそうか
- どこからは専門業者に頼ると良さそうか
- 落葉樹と常緑樹のバランスをどうするか
- 雑草が気になりにくい仕上げ方は何か
といったことを、最初の段階で一緒に考えておくことが大切です。
無理なく付き合える庭は、負担ではなく暮らしの楽しみの一部になります。
季節の変化を楽しみながら、少しずつ手を入れていくことで、その家ならではの庭に育っていきます。
◆ 建物と庭、その間にある“半屋外”の心地よさ
建物の内側と、庭の外側。その間にある空間――たとえばウッドデッキやテラス、縁側のような場所は、暮らしにとってとても大切な「半屋外空間」です。
そこは、室内の延長でもあり、庭の一部でもあります。
たとえば、
- 子どもが庭で遊ぶ様子を、デッキから見守る
- 少しだけ外の空気を感じながらお茶を飲む
- 洗濯物を干したり取り込んだりする家事動線として使う
- 夜、外の明かりとともに家の中をゆっくり眺める
こうした時間は、どれも大げさなものではないかもしれません。
ですが、日々繰り返される何気ない時間の積み重ねが、「この家で過ごすのが好きだな」と思える感覚を育ててくれます。
庭を一緒に考えるということは、こうした半屋外の居場所をどうつくるかを考えることでもあります。
■ さいごに ― 庭も含めて「住まい」をつくる
家づくりというと、どうしても間取りや設備、仕様に目が行きがちです。
しかし、完成して暮らしが始まってみると、思った以上に「窓の外の風景」や「庭との距離感」が日常の心地よさを左右していることに気づかされます。
だからこそ谷中幹工務店では、建物と庭を別々に考えるのではなく、
はじめから「一つの住まい」としてセットで計画することを大切にしています。
たとえ小さなスペースでも、
窓の向こうに、暮らしに寄り添う一本の木があること。
ほっとできる半屋外の居場所があること。
そうした要素が、家で過ごす時間を静かに、けれど確実に豊かにしてくれます。
これから家づくりを考える方には、
ぜひ「庭も一緒に考える」という視点を持ってみていただけたら嬉しく思います。






